【報告】英国ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)主催 オンライン学術会議 Calling Time on Sexual Misconduct参加報告(2020/6/17-18開催)

【日  時】 2020年6月17日(水)・6月18日(木) 
【開催方法】 英国ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)WEB開催 
【参 加 者】 男女共同参画推進センター専任准教授 小川真理子

【概  要】

UCL主催の本学術会議は、2020年6月16日(火)から19日(金)まで4日間の日程でユニバーシティカレッジロンドンを本部としてオンラインで開催された。初日の16日は、オンライン上で事前登録等の説明があり、ネットワーク形成のため参加者はプロフィール等を登録した。17日と18日は、メインのプログラムが開催され、各国大学、専門家から性的不正行為にかかわる主要な報告が行われた。最終日の19日は、UCL主催者による2日間の振り返りと参加者との意見交換が行われた。今回は、メインのプログラムが開催された17日及び18日にオンラインを通して参加した。
UCLでは、本学術会議に先立ち、マイケル・アーサー学長のリーダーシップの下、2017年に性的不法行為及びハラスメントに関する国際会議を開催している。同会議の中で、アーサー学長は、高等教育機関における性的不法行為の根絶を宣言し、学内に性的不法行為を防止するための戦略グループを立ち上げた。UCL教育研究所の所長を同戦略グループ会長に、また、工学部長を副会長に任命し、同メンバーには領域横断的に研究者、専門スタッフを配置した。戦略グループは、これまでのUCLの方針や実践、研修、支援を見直し、2018年に、大学執行部に対して提言と新たな戦略を提示した。この任務を遂行するために、新たに常勤の性的不法行為防止マネージャー(現在は、Behaviour and Culture Change Managerに名称変更)が新設され、大学の中核事業に戦略的に組み込まれることになった。
本学術会議のテーマは、「Calling Time on Sexual Misconduct」であり、高等教育機関における性的不法行為防止に関する世界的な対応とベストプラクティスを共有することを目的としている。2日間で約15のセッションが開催され、英国、カナダ、米国、インド、オーストラリア、フィリピン、アイルランド、エジプト、日本他各国から大学関係者、研究者、専門家、大学院生等が参加した。各セッションでは、約40人~120人が参加し、英国、オーストラリア、アイルランド、エジプト等の大学の取り組みを中心に報告があった。

【開会の挨拶】

アーサー学長による参加者への歓迎の挨拶と本学術会議の趣旨が説明された。その後、アーサー学長は、UCLのBehaviour and Culture Change Managerのケルシー・パスケ氏とともに、性的不正行為を防止するために、各人の行動をいかに効果的に変化させられるのか、また、そのためのリーダーシップの重要性について議論をした。アーサー学長は、大学執行部におけるイニシアティブの重要性について言及し、UCLは全学体制で性的不正行為防止の取り組みを推進することを強調した。

【プログラム】

初日の各セッションでは、次のテーマの報告が行われた。①大学生の性的暴行に関する態度やそれに関連する障壁について、また、米国、英国、アイルランドの高等教育機関における望まない性的な経験に関する先行研究レビュー及びそれが学生に与える影響、②職場の規範や性的不正行為について対応するための新たなアプローチ、③職員の性的不正行為に関する学生の苦情への対応と手続き、④モナシュ大学(オーストラリア)におけるジェンダーに基づく暴力の防止と対応、⑤テクノロジーに関連した性的不正行為に取り組む際の司法の役割、⑥インドにおけるジェンダーに基づく暴力に関する政策、実践、ケーススタディの活用について等である。
2日目のセッションでは、①オーストラリアの大学における性暴力防止と被害者への支援方法に関する部門横断プログラム、②学生の性暴力に関するインタビュー調査結果の提示と、防止のための対策及び実践に向けて、③エジプトにおけるセクシャル・ハラスメントに対抗するための実践、④ローハンプトン大学(イギリス)における効果的なバイスタンダー(傍観者)への介入チームについて、⑤性暴力に関する大学のワークショップ及び教育の改善、⑥性的暴力を防ぐための研修の設計、実践について、⑦大学におけるジェンダーに基づく暴力が学生に与える影響に関する調査、⑧若者の性的行為に関する同意と大学の役割、⑨高等教育機関における性的不正行為への介入策の設計のための行動変容科学の応用のテーマについて報告が行われた。

各報告は次の3点に大別できる。①大学における性的暴力の調査結果の提示と対策、②性的暴力防止を目的とした新たな部門及びチームの創設と大学の取り組み、③性的暴力予防のためのワークショップや支援方法についてである。理論や調査を通して実態を把握、分析し、調査結果を踏まえて対応を検討する。その過程で新たな部門を新設する大学も複数あった。多くの若者が学ぶ大学において、本学術会議のテーマは看過できない重要なテーマである。本学術会議での貴重な情報は今後の取り組みにとって大きな示唆を与えるものであった。

【所感】

本学術会議の報告は、世界の大学が、いかに性的不法行為やハラスメントに対しての予防、防止対策、被害を受けた方への支援を重要視し取り組んでいるのかを知る貴重な機会となった。各大学では組織的にハラスメントに対応し、ジェンダーに基づく暴力の根絶に向けて様々な立場から戦略的に取り組んでいた。オンライン上での活発な議論を通して、英国の大学の取り組みをはじめ最新の知見を得ることができた。ネットワークの形成につながる交流の機会もあり、大変有益な会議であった。
また、本学術会議は、UCLのEquality, Diversity & Inclusionのチームメンバーがファシリテーターを務め、会議全体を運営しており、オンラインでの会議運営の方法を学ぶ上でも重要であった。今後の本学の取り組みに活かしていきたい。

注:本参加報告は、下記サイトを参考にして記述している。
https://www.ucl.ac.uk/equality-diversity-inclusion/dignity-ucl/calling-time-sexual-misconduct